【用語解説】ダウンラウンドとは?

ダウンラウンドとは? 用語解説
資金調達のダウンラウンドとは?

ベンチャー企業へ投資したときに求めるリターンは、経済的リターンと戦略的リターンですが、経済的リターンは必ず考えておかなければなりません。エグジットできなければ意味はないものの、自分たちが投資した次のラウンドで1株あたりの評価が高まるかどうかは、キャピタリストにとっては最も重要ともいえるポイント。

しかし、同じ株価であるならまだしも、評価が下がる、すなわち「ダウンラウンド」になるのだけは避けたいもの。今回はダウンラウンドについて解説します。

ダウンラウンドとは?

資金調達のダウンラウンドとは、そのラウンドの前の資金調達ラウンドよりも低いバリュエーションで企業価値が算定され、一株当たりの価格を下げて株式を発行することを指す。

前回ラウンドより低い評価額になると、既存投資家にとっては資産価値が減ることを意味し、なるべくそうはさせたくない心理が働く。しかし、価額を下げざるを得ないということは、対象会社の事業運営自体がうまくいっていないということであり、資金調達ができない場合は清算となってしまう可能性が高い。そのため投資額だけは回収しようと、M&AをExitとした方法が取られることが多い。

ちなみに、シード、アーリーから投資している投資家は、優先株式の発行を引き受けることによって、回収において有利になるよう取得価額に対し1:1の条件、例えば1株1万円を100株(=100万円)取得していたとしたら普通株主に優先して投資分を回収できるように設定している場合が多い。ファンドの評判や投資倍率、LP投資家への説明責任などから、事業に行き詰った投資先の売却先を探すことは、ファイナンシャルリターン追うVCにとっては当たり前の選択肢である。

そのため、結果としてM&Aになればダウンラウンドとして公にされることはなく、ただ実質的にダウンラウンドのように企業価値を下げて買収に応じるベンチャーは少なくないと考えられる。

ダウンラウンドの発生頻度

多い少ないの判断は個人差があるものの、当然ながらこのような状況はベンチャー投資、スタートアップファイナンスにおいて、「なくはない」ものである。

IPOする企業が一握りなのを考えれば、その他の企業は清算されるか、ゾンビ化(黒字化はできていて生存はできるが、成長はない起業)するかである。注目もされず人知れず退場する企業は多い。そのためダウンラウンドはベンチャー投資の市場において自然発生するイベントと捉えられる。

実数値としては、INITIALの調査によればこの数年で年間に20~30件くらい、全体の1~3%がダウンラウンドとなっているようだ。2020年に関しては新型コロナウイルスの影響で前後の年よりも多く、資金調達した2055社うちの40社がダウンラウンドとなった(参考:2021年上半期スタートアップ調達トレンド)。

ダウンラウンドの交渉

新規発行株式を引き受ける投資家の立場

優位な交渉ができる場合が多い。特に、投資先のベンチャーがキャッシュ的に厳しく資金調達が困難な状態であればあるほど強くなる。一見、win-winにならないように見え、ハードな交渉になってしまいがちで臆してしまうが、投資先も既存投資家も、会社が倒産してしまっては投資回収が全くできない。そのためダウンラウンドになることに嫌な顔はすれど、内心は渡りに船であることは間違いない。

しかし、あまりにも強引過ぎる交渉は、将来の禍根を残す可能性が高い。既存の投資家から株式を買い取ることをせず、第三者割当増資のみになるのであれば、既存投資家と一丸となって投資先の成長を支援うることになる。数年という長期の関係性になることもあるため、議決権の交渉事が発生する場面でロジカルではない選択が生まれてしまうことはなるべく避けたい。

まず株価は、しっかりとしたデューデリジェンス(第三者算定ならなおいいが、マイノリティ投資では現実的ではない)を行い、納得できる根拠をもって適正価格を算出して交渉すべき。株価算定は採用する数字によって大きくことなるため、なによりもお互いの「納得」が大切となる。

次に、その他の諸条件で折り合いをつけていくのがよい。例えば、経営陣以外の既存投資家が優先株主のみであれば普通株で応じたり、支援内容を担保してより高いバリュエーションにするための努力を既存株主に誠意をもって伝えるなど。

なお、ダウンラウンドは、そのラウンドの株価よりも高い価格で取得していた株主に減損処理をする必要が生じる。事業会社にとってはPLにインパクトがあり社内の強い反発が想定され、VCにとっては悪い風評につながり次のファンド組成と出資者募集に影響が出てしまうかもしれない。これら既存投資家の立場を考えながら交渉を進めていくこととなる。

既存投資家の立場

不利な交渉となるのは間違いない。そもそもダウンラウンドになるということは、事業がうまくいっていない場合が多い。「事、ここに至っては…」という状態にまで追い詰められてしまったら、新規発行株式の引受人の主張は全て受け入れざるを得ない。なぜなら、受け入れなかったら投資先が倒産することになってしまうからだ。

そうならないために、投資先の事業進捗をしっかりと把握し、M&Aというオプションに舵を切れる目配せが必要だ。M&Aは買収する企業にとっては連結化によってPLにインパクトがあるため、事業DDの段階で計画に達しないと判断されればそこで万事休すになってしまうこともある。

経営者や保有比率の高い投資家は、当面の資金繰りや複数の交渉先を繋ぎ留めておく努力もしておきたい。ただし、まだ対象企業の規模が小さい場合は、リソースの問題で1社に絞らざるを得ないこともある。

とはいえ頼みの綱はある。新たな引受人は、投資意思があるということだ。

ダウンラウンドにならざるを得ない企業をそれでも資金提供しようとしているのは、何もいじめようとしているわけではなくリターンをしっかり得られると考えているからこそだ。だからこそ、引受人の条件で飲むところは飲みつつも、「受け入れる代わりに、この条件は保持したい」など、妥当性のある主張をするのはあきらめてはいけない。株主間で敵対関係を作るのは望ましくはないため、交渉相手も妥協点を見つけて社内調整の材料にしたい場合もある。

経営者の立場

不利な立場ではあるが、何をモチベーションにしているかなどで受け止め方は違うだろう。事業を成功させたい、という信念のもとで事業運営しているのであればダウンラウンドになろうが受け入れるしかない。

しかしダウンラウンドは、これまで資金面で支援してくれた既存投資家に対して面目が立たない。新たな資金調達によって、もとの価値に、あるいはそれ以上に戻すことをプレゼンテーションして納得してもらうくらいしか手立てがない。

少しでも高いバリュエーションで引き受けてくれる新たな投資者を探すために、1社に絞り込むのは危険であり、複数の投資者候補との話を進めているという前提で交渉すべきだ。

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