ベンチャー企業との事業会社のシナジーなんて本当にあるのか?

ベンチャー企業との事業会社のシナジーなんて本当にあるのか? 実務
ベンチャー企業との事業会社のシナジーなんて本当にあるのか?

INITIALによれば、2021年のベンチャー企業への出資のうち約17.8%にあたる約1309億円が事業会社からの出資なのだそうです。これにCVCの分約358億円も加えると約1666億円になり、21%を超える割合になります。割合についてはこの10年ほどそこまで大きく変化はないようですが、2017年ころから年間で1000億円程度は事業会社が投資を行っています(参照:「2021年国内スタートアップ資金調達、1兆円市場へ」NewsPicks 2022.01.28)

VCにはない事業会社の能力として、リスク許容度が挙げられます。VCはファイナンシャルリターンのみを求めることがほとんどですが、事業会社の場合、何らかのシナジーを期待したストラテジックリターンを求める傾向があります。おそらく、この2~3年内で立ち上がった事業会社の投資部門やCVCは、シナジーやストラテジックリターンという免罪符を片手に、VCのリスク許容度をやすやすと超えていくような投資が行われているのかと思います。

しかし投資活動をしていくと、ふいにこんな恐怖に陥ります。「ストラテジックリターンって何?」「シナジーなんてなくね?」と…

よく考えてみてください。出資したからといって僅か数%のマイノリティ出資では経営権に口を出せるわけがないですし、当然ながら自分のところの事業になるわけでもない。投資先が自社のバリューチェーン上の前後に関わる事業をやっていたり、代替可能性のあるサービスだとして、それが一体何だというのか…

そんな思考に私も陥りましたので、そこんところの考えをまとめてみました。

シナジーとは?

シナジーという言葉はとても「聞こえのいい」ワードです。そりゃなんでもシナジーが効けば嬉しいわけですが、人によってかなり幅が違うと思います。

シナジーとは相乗効果であり、当社と投資先のB社がいたとして、シナジーを狙うのであれば「1+1=2」ということではなく、少なくとも2よりも大きい数字になっていなくてはなりません。正確に言えば、当社とB社を繋ぐためにかかったコスト(稼働した人件費など)もあるため、その分も補っていることが望ましいです。

シナジーには大きく2つの考え方がありまして、「売上が増える」「コストが減る」です。

シナジー効果①売上が増える

当社がB社を買収したとしましょう。シナジーがないと、単に当社の売上にB社の売上が連結でくっつくだけです。

この状態、買収した意味あります…?
もちろん、その瞬間だけでは測れません。当社の売上が将来的に減っていくことがわかっていて、B社は拡大していくだろうという事業ポートフォリオを考えての買収であればありでしょう。しかし、互いにとってただの足し算にしかならないのであれば、買収するべきではありません。

マイノリティ出資においても、シナジーを期待するということは、その投資によって当社の売上が増えるか、ベンチャーであるB社の売上が増えて企業価値が上がるかのどちらかがあって然るべきです。

シナジー効果②コストが減る

買収パターンで言うと、コーポレート機能がある程度統一化されるはずなので、コスト削減というものは一定期待ができます(全く異なる業種の場合、必要な機能が異なる可能性もあるため、期待できないことも考えられます)。

一方でマイノリティ出資の場合は、まるで効果がありません。出資者側が何かサービスを提供する場合もありますが、それはベンチャーにとってメリットですが、当社にとってはただのコスト負担です。

事業会社とベンチャーが組むメリットはあるか?

結局、これは玉虫色の回答になるのですが、なくはないし、あるときはある、というのが答えでしょう。いや、ほんとにこれしかないと思います。

一切のストラテジックリターンを気にしない純投資になってしまうのであれば、別にVCでもいいので取り立ててメリットはありません。かといってデメリットも保有割合次第ですが、多くの場合それほど気にするものでもないでしょう。

ですが、事業会社に少しでも色気があるのであれば、投資先の成長に寄与したい意識があります。それは売上を上げてくれる会社を探したり、戦略上必要なソリューションを仲介するなど、ベンチャーやVCが持っていないリソースが間違いなく存在します。

事業会社も投資先のバリューアップはさせたい、つまりファイナンシャルリターンへの動機はあるので、顧客を紹介できるのであればできるだけしたいと考えます。

これをシナジーと言えば、その通りなのかもしれませんが、おそらく期待しているシナジーではないのではないでしょうか。そのあたりにモヤモヤとしたものが内在しています。

ストラテジックリターンという幻

そもそも本当にシナジーがあるのであれば、別に資本を投下する必要はありません。資本投下してシナジーがあるというのは、そういう「体裁」であることがほとんどです。現実的にうまくやっている事業会社はほとんどないのではないでしょうか。

ただ、ファイナンシャルリターン以外のリターンが全くないかと言うとそうでもないので、断言ができないのも事実。例えば、投資先から事業進捗を報告してもらえば、その領域の課題や市場の変化などがかなりリアルにわかります。投資先も、事業会社の実際のビジネスやネットワークの情報を得られることはデメリットにはなりません。投資家同士の横の連携も見逃せません。対象会社以外の話題も出るので、事業会社にとっては情報収取先の一つになり得ます。

しかし、マイノリティ出資から新規事業が生まれるなんてうまい話にはなりません。

出資分を研究開発費(R&D)と割り切るという考え方もありますが、やや懐疑的です。投資家が極わずかしかいないならまだしも、マイノリティ投資で事業会社が入ったところで、投資先がこちらのPoCのために稼働してくれる可能性は少ないでしょう。

資本を投下するよりも売上を立ててあげるほうがよほどアウトソースでの研究開発という割り切りができます。下手に資本を投下するとお互いにとってフラストレーションがたまることになりかねませんし、なんといってもベンチャー側にはメジャー企業からの「売上」という実績がつくので、次回の資金調達のときのバリューアップにつながります。

やはりファイナンシャルリターンありきで考えておかないと後々痛い目に合うため、投資先は捨て金と思うことなく、真剣に吟味しなければなりません。

結局シナジーはあるのか?

もし、新規事業創出や新商品開発という夢のようなストラテジックリターンを求めているようであれば、それを実現するほどのシナジーは難しいでしょう。

しかし、もう少し欲を減らしてみて、以下のようなことができるのであればシナジーがあると言えるのではないでしょうか。

  • 有益な情報交換ができる
  • ブランド力を向上させることができる
  • 事業会社が将来的に買収も可能なポジションを取る

双方にとって、魅力的なパターンの1つにブランド力を上げました。これは割と有益なのではないかと思います。事業会社が目指したい世界、すなわちブランドイメージと、投資先の事業がマッチする場合、お互いにとって事業が円滑に進めやすくなる可能性があります。どちらかというと投資先にとっては魅力が大きく、「この企業にお墨付きをもらった」と言えることは大きいと考えられます。事業会社はそれによって投資先の企業価値が上がればファイナンシャルリターンが期待できます。

事業会社にとっては買収も選択肢です。比較的初期に投資していれば株の保有比率も高い場合がありますので、投資先の事業状況によっては手の出しやすいバリュエーションで50%以上の株式の取得が可能かもしれません。

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